子どもたちは今
子どもたちの声(年次報告)
2023年度 年次報告(2023年4月1日~2024年3月31日)
2023年度 年次報告
「はじめに」より
「子どもの声をきく」とは何を以って旨と為すのか — 。
チャイルドラインが「聞く」ではなく「聴く」を旨として事業を出発させたことは実に賢明だったと、この事業に関わりを持つ人間として誇りに思っています。なぜなら「聴く」は「きくこと」の基本だと考えているからです。
子どもたちの現状は「きいてくれない」という多くの声に象徴されるように、思いすら受け止めてもらっていないことが多いからです。胸からあふれ出ても足りない怒りやさびしさ、諸々の葛藤を傾聴する・・・。受け止めてもらえたとき、抱えていたそれらの感情から多少なりとも解き放たれ軽くなる。そして出来たその隙間に気力が戻ってくることが信じられるのです。私たちは聴くという作業を通して子どもたちに、エンパワメントをして欲しいと思っているのです。次の行動の活力の源になるために。子どもはそうできる力を持っているのです。
子どもの頃、母親の許に近所のおばさんが一人二人とやってきて愚痴を溢していました。大人になるって沢山の不平や不満を抱えることなのかなぁと、あるがままを認められ、幸せな子ども時代を送っていた私は漠然としか感じることができませんでしたがそう思った記憶が残っています。母になぜ?と尋ねると「来る時のおばさんと帰る時のおばさんの様子をみてごらん」と云われたのです。
我が家に来る時のおばさんは、自分の足の親指の先を見ているとその時私は感じました。そして帰るときのおばさんの背中は、しゃんと伸びているのです。これでおばさんは前向きに物事を考えていけそうだと思った記憶が何度もあるのです。心に溜まった不平不満を吐き出すということはそういうことなのでしょう。母は「物云わぬは腹ふくるる思い」という云い方で、その感覚を表現していました。それは単純に愚痴云々に留まらず、自己の開示につながることでもあるのだと、年を経て考え及んでいます。
当時明治生まれの母はエンパワメントという言葉を知らなかったと、確信をもって思っています。だからなのか母の考え方なのか今はきくこともできませんが、母は私に言葉で教えることは皆無にちかく、私自身が「感じ取る」場を常に示唆していたと思っています。
私が三重県でチャイルドラインを開始するに当たっての迷いは結構長く、根底には母の考え方が息衝いていたのではないかと、思っているのです。
三重県でチャイルドラインに関わって下さる人たちが、傾聴という言葉が持つ概念を、理屈や理論を越えて、つまり言葉として「知る」のではなく、自分の人間性におとしこみ行動につながっていく「わかる」になるにはどうしたらいいのか — 。具体的な方法論をみつけあぐねていたからでした。今は失敗しながらふり返りの話し合いで他者を鏡に、自からにベクトルを向け内省と研鑽する以外方法はないのかも知れないと、悟りの境地になっています。
意見形成支援という言葉に出会った2、3年程前から、前方を歩む受け手支え手の、より力量を培う場を子どもとのやりとりをとおして保障するには如何ような道があるのかと、引っかかり続けていたものがありました。課題の放置は組織責任だと自分に問いながらも全面的に踏み切れなかったのは、多数を占める受け手支え手の現状に由来していると思っています。そして思いました。子どもに責任を持つとはどういうことなのかと。永遠に訪れないであろう受け手支え手の質の画一を待つことなのか、と。迷いは迷いを増幅。そこを断ち切らせたのは子どもから寄せられる声の数々です。
子どもたちは、できるできないの競争に身を晒し続けているのです。その現状を感じるとき、そして自信が持てず自分を信じることができない、だから他者(友だち)も信じられないで自分の気持も開示しない。そんな子どもたちの声をきくにつれ、例え一人でも二人でも次の段階で子どもを受けて立てる力を持つ受け手支え手が育っているのなら、決断することだろうと。傾聴を基本にしながらも訊く(Ask)の段階へ。
リサーチという受け手を主体にしてしまうこととは全く別次元の訊く(Ask)という子どもとの関係性。正しく子どもを主体者にしていく現場です。それは子どもにとって論理的な思考への一歩になるかもしれません。意見形成支援への道であると思っています。
チャイルドラインは一期一会です。しかしどんな一期一会に出会うかによって、子どもの人生がそして考え方が変ってしまう一期一会もあると私は信じている人間です。自分が意見や意志をもっていいんだ!と思える体験は主体を、つまり権利主体を確立させていく基礎になります。それが出来たときチャイルドラインは初めて、「子どもの権利をミッションにしています」と云えるのではないのでしょうか。アドボケイトの学びもそのためにも必要だと思っています。
電話やメールから聴こえてくる
子どもの声
2023年度、チャイルドラインにかかってきた電話などから特徴的なものを、三重県の子どもの声を中心に、全国からかかってくる子どもの声を参考にして分析しました。また社会的背景も考慮しました。
- グレーゾーンがない
- まるで「白・黒」しかない世界にいるような、極端で結論を急ぐ発言はたくさんあります。あいまいなようで幅のある考えを持つ子どもは減ってきていると感じます。そのような考え方、価値観になる背景を考えると、子どもたち一人一人が違いを認められ、自分のままでよいと感じる経験をしていないことがあると思います。極端な投げかけをしてくる子どもたちにとって、チャイルドラインで今の気持ちを聴いてもらい肯定される経験は、自分を見つめ、奥底にある気持ちに気づき、グレーゾーンを広げる機会となります。子どもの権利条約第12条「意見を表す権利」、第13条「表現の自由」
- 子どもにとっての「生と死」
- 小学生が友達だけでなく、見知らぬ人にも些細なことで「死ね」「殺す」と怒りをぶつける場面がある。子ども間で流行っている生き残りゲームに、はまっている子どもたちが多いとすれば、そういう言葉が日常化してもおかしくはない。現実に「人は死んでも生き返る」「人は死なない」と捉えている小中学生が一定数はいる。子どもの権利条約第6条「生きる権利・育つ権利」、第31条「休み、遊ぶ権利」
- 自己決定
- 子どもたちの生活(育ち)を見ていると、幼児の頃からことごとく自己決定権を奪われ、指示のもとに生活をしています。すると何かが上手くいかなかった場合、無意識に指示した人間に責任を転嫁していくのです。親は転ばないようにと細心の注意を払い子どもの前を掃いていき、それこそが愛情と疑わないのですが、それが子どもから失敗する権利を奪い、子どもが自ら意思決定する力をも奪うことにもなるのです。子どもの権利条約第12条「意見を表す権利」
- “無駄な時間”の大切さ
- 親の期待に応えようと頑張っても認められず、「疲れた、死にたい」と訴える子ども達。何かに追われるように日々を過ごすのではなく、自由にゆったりと過ごせる時間こそが子どもには必要です。子どもが安心して“無駄な時間”に浸れる環境があることが、子どもの豊かな成長に大きく影響するのだと思います。子どもの権利条約第31条「休み、遊ぶ権利」
- 自分勝手な関係をつくりたい
- 子どもたちは他人とつながりたいけれど、うまくいかなかったらどうしよう、関係が壊れたらどうしようと、自分のイメージ通りにいかない場合への不安を電話してきます。やってみないとわからないことなのですが、自分の頭の中でぐるぐる考えて一歩を踏み出せないでいます。失敗しないように、できない、わからない自分だと見られないようにと格好をつけることに必死になっています。子どもの権利条約第6条「生きる権利・育つ権利」
- あきらめて生きる
- 虐待を受けていても「とりあえず学校に行けて、衣食住が普通に生活できていることを十分だと思う。子どもの権利は知っているが一回も尊重されたことはない」とあきらめていく子どもがいます。自分の「生」を否定され、心身ともに傷つけられ、それでも生きていこうとするからチャイルドラインに電話をかけてくるのだと思います。子どもの権利条約第6条「生きる権利・育つ権利」、第19条「虐待・放任からの保護」
2023年度子どもの声を受け止める
~子ども専用電話「チャイルドラインMIE」・「こどもほっとダイヤル」の
電話データからみえる子どもの状況~
チャイルドラインMIEの報告
チャイルドラインは、全国68の団体がネットワークを組み実施している子ども専用電話です。三重県では毎日実施できていませんが、実施のない時間は開設している全国のチャイルドラインで受けてもらっています。2023年度全国のチャイルドラインで受けた三重県発信の電話は3,921件ありました。
※使用データは、チャイルドライン支援センターのデータベース(2024年3月31日までに入力完了データ)を使用しています。
チャイルドラインでは、安心して話せる電話かどうか、無言や一言の電話が続いて、やっと話し始める子どももいます。
名前や年齢・性別など受け手から聞くことはありません。会話が成立した885件をデータ化しています。
こどもほっとダイヤルの報告
三重県では、三重県子ども条例に基づき、子ども専用電話相談『こどもほっとダイヤル』を開設しました。子どもの声を受け止め、子どもとともに状況や気持ちを整理しながら子ども主体の解決方法を考えます。専門的な対応が必要な場合は関係機関につなぐことができます。
2023年度は922件の電話を受け、児童相談センターに3件つなげました。
【関係機関】県子ども・福祉部少子化対策課、同子ども虐待対策・里親制度推進監、県児童相談センター児童相談強化支援室、県教育委員会事務局子ども安全対策監、同生徒指導課、同研修企画・支援課(総合教育センター)、県環境生活部私学課、県警察本部生活安全部少年課、県女性相談所、チャイルドヘルプラインMIE ネットワーク